「たった8cmの差」
- 安部 整
私たちE-LIFEの福祉用具専門相談員は、ご利用者様にとって最適な住環境を提供する仕事という考えを最も重視しています
単に福祉用具をお届けするのではなく、ご利用者様の根本的な問題を解決すること
そのために、私たちは「たった8cmの差」も見逃さない福祉用具の選定を心がけています
目次
1:たった8cmの差とは?
「たった8cmの差」とは、ベッドの横幅の差のことです
まず介護ベッドとはどのようなものなのか・・・
介護保険で定められている介護ベッド(特殊寝台)の定義は
「サイドレールが取り付けてあるもの又は取り付けることが可能なものであって、次に掲げる機能のいずれかを有するもの 一.背部又は脚部の傾斜角度が調整できる機能 二.床板の高さが無段階で調整できる機能」
と定義されています
実際の介護現場では、ご利用者様の身体状況に応じて、2モーター(背部の角度・高さ調整)・3モーター(背部・脚部の角度・高さ調整)の介護ベッドを選定、ご提案することが多いです
ここでお伝えしたいのはベッドのサイズです
メーカーさんによって多少の違いはありますが、基本的にベッドの横幅には83cmと91cmがあり、
そこにはわずか8cmの差が・・・
また、ベッドの長さもレギュラーやミニ、ロングと3つのサイズがあります
ベッドの幅については2つポイントがあります
・起居動作に影響する
・介助者の負担
ベッドのサイズといわれると、「寝室が狭いからコンパクトなベッドにしようかな」「今までセミダブルのベッドを使っていたので、できるだけ大きいベッドがいいな」など二次的な要因が多くなります
もちろんご利用者様のご要望が一番ですが、福祉用具専門相談員としてはしっかりと本来のポイントをご説明した上で、身体状況とご生活、ご要望に最適な介護ベッドを選んでいただきたいと思います
本来でいえば、ベッドのサイズは身長・体重に合わせ、寝返りや起き上がりの能力などの身体状況に合わせることが大切です
ベッドの幅が違う・・・わずか8cmの差なのですが、起居動作は変わってきます
2:無意識に利用できる環境設定
介護ベッドが必要になるのは、床からの立ち上がりや起き上がりができない、膝や腰が痛いときなどです
いわゆる起居動作の支援や臥床時の身体負担の軽減です
圧迫骨折を例にしてみると、基本的には安静にしながら、骨折が治るのを待つケースが多いです
安静にしながら、痛みや無理のない範囲で起居動作を行うにはベッド周りの環境設定が大切です
ベッドに寝た状態で、身体からベッドの柵(サイドレール)が近いとベッド柵を掴み、ご自身で寝返りがしやすくなります
ベッドの横幅における83cmと91cmの「たった8cmの差」が大きな差になることがあります
ベッドの幅が違うとベッド柵を掴む際の肘の角度も変わります
肘の角度が100度なのか120度なのかによって、寝返りや起き上がりのしやすさが変わります
腕相撲で肘の角度が大切なのと同じ理由です
言われてみないと、この「たった8cmの差」に気づくことは少ないと思います
しかし、無意識に利用できる環境設定に、私共から事前にご提案することがとても重要だと考えています
3:わずかな差が福祉用具の持つ意味を変える
リハビリ施設で身体の寸法を測ったデータを見ました(女性高齢者を対象としたデータ)
座底長(座った際のお尻の後端から膝裏までの長さ)の平均は39cmでした
ベッドの幅が83cmの場合、座底長39cmの人がベッドに腰をかけ、横になると臀部がちょうどベッドの真ん中辺りにきます
一方、ベッドの幅が91cmの場合はベッド中央までの距離が少し足りないので、起居動作の工数が増えます
簡単に言うと身体の寸法によっても、適切なベッド幅が変わってくるということです
一般的なシングルベッドは97cmです。介護ベッドは先ほどの起居動作や介助(おむつ交換等)の視点から、もともとコンパクトに設計されています
急に83cmとなると狭く感じることもあるため、そこはご利用者様の身体状況やご生活、介助者の方のご意見に合わせて選んでいただく形となります
このように、ご利用者様の身体状況と介護環境、治療や回復などの目的によって、わずか8cmの差ではありますが福祉用具の持つ意味は大きく変わります
4:傾き10度の重要性
最後にベッドの傾きも重要なポイントです
パラマウントベッドさんが開発された「ラクリアモーション」という背あげ機能があります
ラクリアモーションという機能はベッド全体の傾斜を利用することで、より自然な起き上がりができる機能です
この機能に関しては体感していただくのが一番ですが、腹部の圧迫感や背中のズレる感じがありません
また、先程の〝わずかな差〟と同様にたった10度傾くだけで色々なメリットがあります
まず、ベッドから離床する際に足を下ろしやすくなる
ベッドから離床ができない方もベッド上で過ごす際に椅子に座るような活動姿勢で過ごすことができます
(骨盤から起き上がることで、食事摂取や呼吸に影響します)
「ラクリアモーション」に関しては動画で紹介致します
福祉用具は〝わずかな差〟が大切です
著者
安部 整 福祉用具専門相談員・スペシャリスト育成プロジェクト【COLLEGE+E】責任者・日本車椅子シーティング協会認定シーティングエンジニア1989年 東京都大田区生まれ。 前職から福祉用具営業に従事し、福祉用具の選定には人間工学や医療の知識など、様々な要素が大切と気づき、自己研鑽する。 現場対応に加えて、介護・医療・人間工学・力学なども学び、より適切な福祉用具の選定に根拠と自信を持つ。 現在はそのノウハウや知識を会社全体での育成の仕事を行いながら現場も回る。