重心はどこ?
- 安部 整
私たちE-LIFEの福祉用具専門相談員は、ご利用者様にとって最適な住環境を提供する仕事という考えを最も重視しています
単に福祉用具をお届けするのではなく、ご利用者様の根本的な問題を解決すること
今回は「人の重心と福祉用具の関係」についてお話させていただきます
目次
1:重心と福祉用具の密接な関係
〝重心〟とは簡単に言うと〝物事の中心となる点〟です
重心がなぜ大切かと言うと、〝転倒〟は重心位置の変化によって起こるからです
そして、福祉用具専門相談員の役割はご利用者様が自立して、安全に生活が送れる環境を提供することです
住環境とご利用者様の重心は密接に関係しています
転倒・事故を予防することは高齢者の方の住環境においては大前提です
『この場所は段差があり転倒リスクが高いので手すりを導入したい』
『下肢筋力低下によって歩行が不安定になってきたので、転倒しないように歩行器を利用したい』
転倒を予防したいというご相談です
転倒は、その人の重心が崩れることで重心点が地面に着く=転倒してしまう
手すりや歩行器を導入したとしても、ご利用者様の重心が安定しなければ導入効果は低くなってしまいます
建物を例えてみると、転倒モーメントという働きがあります
建物が倒壊しないようにするには、専門家がしっかりと構造計算をした上で建物を建てます
転倒モーメントは(重心の高さ×質量×重心が動く速さ)をかけると、転倒する力(回転)が計算できるというものです
〝静〟と〝動〟の違いはありますが、人が転倒してしまうことも似ています
人の重心は立っている時はおへその下にあります
(立位や座位など姿勢や体形によって重心位置は変わります)
身長が高いと重心の位置が高くなります
また、子どもは大人と違って重心がおへそより上にあります。大人と比べて、身体に対して頭が大きいからです
筋力や骨格の違いもありますが、大人よりも子供の方がバランスを崩しやすい要因の一つです
柔道をイメージするとわかりやすいと思います
柔道は引っ張ったり、押したり、足をかけたりして、いかに相手の重心を崩し、倒すかが勝負となります
これを住環境に当てはめてみると、、、
・段差を登る際は押されています
・段差を降りる際は引っ張られています
・浴室で滑ってしまった時は足をかけられています
重心の位置が急に崩れて転倒するわけです
手すりや歩行器を導入しても、重心が安定した状態で利用できなければ導入の効果は低くなってしまいます
もうひとつはその方によって重心が変わることです
例えば、高齢者の方は骨盤が後傾していることが多いです。骨盤が後傾すると重心は後ろになります
(バランスを取ろうとして頭を前に出して円背になっていることも多いです)
歩行器を例にあげてみます
骨盤が後傾し、円背の姿勢でピックアップ歩行器を持ち上げると一瞬、重心が後ろにいきます
本来、歩行器は転倒しないために導入しますが、歩行器を持ち上げる際に後ろに倒れてしまうリスクが高くなります。しっかりと重心に注目して歩行器の高さ・重さを選択しないと、バランスを崩しやすくなってしまいます
・どのくらい背筋が伸びるのか(変形性の円背か虚弱性の円背)
・足首の屈曲方向への硬さ(歩行器を少し低くすると屈曲位に入りやすい・低くしすぎると腰や背中の筋肉・運動に悪影響が出てしまう。このバランスに対する選定が一番難しいです)
・前腕と上腕の筋力(椅子に座った状態で歩行器を持ちあげると、前腕と上腕の力を確認できます。ここで歩行器が重いと感じる場合は歩行器を持ちあげる際に重心が不安定になりやすいです。重い物を持ち上げる際に腕の力だけでは不十分の場合、身体全体を使って持ち上げようとするためです。逆に言えば重心移動は大きな力です)
歩行器の選定だけでも確認する点は多いです
歩行器を利用することが大切なのではなく、歩行器を利用することで重心が安定することが大切なのです
2:8度の違い
写真の歩行器 Rec01(レックゼロワン)
歩行器「Rec01」は、持ち手のグリップが8度傾いています
持ち手のグリップに8度の傾斜をつけることで前腕・上腕に力が入りやすくなります
重心の位置はそのままで、上腕と前腕を使い振り子の原理で手首のみで前に進める
後ろに重心を引くタイミングを作らずに歩行器を持ち上げることができるのです
8度の傾きは一見分からないような角度ですが、動きは全く変わります
また高齢者の方がバランスを崩してしまう一番の原因は筋力低下です
対策としてはやはり歩行器などで支持基底面積を増やすことです
(支持基底面席=体重を支える面積のこと)
そこで歩行器を使用するのですが、やはり身体状況や高さが合っていないとバランスを崩す原因にもなります
一人ひとりに最適な歩行器を導入することが大切です
3:工夫された手すり
データ分析では高齢者の方の転倒要因は〝下肢筋力低下〟とされていますが、お病気に影響によって、転倒リスクが高くなってしまう方もいらっしゃいます
例えば、パーキンソン病で突進傾向がある方の場合、手すりを通常の設定よりも2.5cm~5.0㎝程度高くすることで、歩行時の減速ができるような高さで設置します
また、要所に縦の手すりを設置することで、ご利用者様がそこで1回背筋を伸ばせるように環境設定をすると動きが良くなることが多いです
そして、突進を防ぐために手すりの高さを変えていることや姿勢を伸ばす目的をご利用者様・ご家族様へしっかりとご説明し、ご提案します
環境に心地良さを感じて頂き、ご自身でコントロールできるという〝感覚〟が大切だと思います
一人ひとりのご利用者様に適した住環境
一人ひとり体格が違えば重心の位置や動きも違います。その方の重心の動きに注目して環境設定することが大切です
あくまで福祉用具を導入することが本来の目的ではなく、安全に自立した生活を送ることが目的です
福祉用具はその方にとってはとても良い商品でも、利用される方が変われば全く使えなくなってしまうことも多いです
私たちE-LIFEの福祉用具専門相談員は一人ひとりのご利用者様の動きに適した住環境を提案します
著者
安部 整 福祉用具専門相談員・スペシャリスト育成プロジェクト【COLLEGE+E】責任者・日本車椅子シーティング協会認定シーティングエンジニア1989年 東京都大田区生まれ。 前職から福祉用具営業に従事し、福祉用具の選定には人間工学や医療の知識など、様々な要素が大切と気づき、自己研鑽する。 現場対応に加えて、介護・医療・人間工学・力学なども学び、より適切な福祉用具の選定に根拠と自信を持つ。 現在はそのノウハウや知識を会社全体での育成の仕事を行いながら現場も回る。